アクセライズサマー #01-0-1 試し読み 自主制作ライトノベル 小説


 超不定期更新。修正されてなければアクセライズサマー#01の内容と同じです(修正前のやつでした😅 1巻発売頃に直します)。

 文章はスマホ向けに無理やり調整しています。「!?」が横になってるのは仕様です。本編はちゃんと難読漢字にルビ振ってます。著作者はニコアです。本人です。

ーー ←コピペ用。──縦ずれ対策

 資金がないと作れません。気持ち的に。

アクセライズサマー#01-0-0 無料

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     \ ???

 血で染まった腹部を小さな手で押さえつけて、オレは空を仰ぎ見る。
「…………」
 大火で照らされた茜色の空に浮かぶのは、機銃を抱えた赤い瞳の兵士たちだ。
 あいつらは『赤空人せきくうじん』と呼ばれている人種であり、自由に空を飛ぶことができる『浮遊術ふゆうじゅつ』という超常的な力を使うことができるらしい。
 オレはそんな、天使か悪魔かも分からない赤空人たちから身を潜めるために、崩れ落ちてきた天井の、十字付きの大きな瓦礫に寄りかかっていた。

「君、大丈夫だよね?」
 静まりかえった教会の中に、声を抑えた女の声が小さく響きわたる。本来は声を出すべき状況ではないんだけど、声をかけられたのなら返事をしないわけにもいかない。
「はぁ……」
 ため息を吐き出してから声のする方向に首を向けると、そこには空に浮かぶ兵士と同じ、赤い瞳をした女がひっそりと佇んでいた。
「なんでまだこんなところにいるんだよ。帰るタイミングなんていくらでもあっただろ? どうしてオレの話を聞かなかったんだよ」

 ーー怒りはなかった。
 何度言っても考えを改めなかった女がオレの話を受け入れないのは当然のことだし、そこからオレの問いかけにどう答えるのかも容易に予想することができていたから、今更何を言っても時間の無駄だってことは内心分かっていたんだ……。それに、こんな状況でも笑顔を絶やさないこの女の、底なしの明るさに当てられてしまったから。
「バカが」
「ふふっ。そうだね、そうかもね……。でも、君を置いて帰るわけにはいかないでしょ?」
 オレの暴言を聞いて女は笑う。
「どうしてお前が帰れないんだよ。お前はオレと何も関係ないじゃないか」
「何も関係ない? 君は私の友達でしょ。せっかく仲良くなれたんだから、友達を見捨てるわけにはいかないよ!」
「はあ?」なに言ってんだ、コイツ。
 もともと変な女だとは思っていたけど、偽善の塊みたいな言葉を聞いてオレは頭を抱えた。これからどんな危険なことが起こるのかも分からないのに、女は今も無邪気に、当たり前のように笑顔の花を咲かせている。
「ふふふ」
「…………」
 女はきっと、『見捨てるわけにはいかない』という言葉の通り、本当にオレのためにここにいるんだろう。けど、そんなことはオレにとってはどうでもいいことだし、優しくされても迷惑なだけだ。走って逃げるにしても、隠れて逃げるにしても、戦うにしても。足手まといの女がいればまともに動き回れないのは分かりきっている。
「あんたがオレのことを思ってくれてるってのは分かったよ。だけど、いい迷惑なんだよ。もうオレに構わないでくれよ……。ーーそれに、アーチの回線だってまだ生きてるんだろ? 今ならまだ間に合うだろうから、さっさと消えてくれ。気が散るんだよ」
 かなりトゲのある言い方をしてしまったけど、その言葉はオレの本心だった。もう何度目になるのか分からないほど女の善意を否定してきたけれど、ここまで明確に否定したのは初めてだ。望んでいない善意とはいえ、他人の優しさを振り払うのは心が痛む。

「あ、……うん。そうだよね。ごめんね」
 オレの言葉を受けて女が謝罪をする。可哀そうだと思うけど。
「分かったならさっさとここからーー」
「私だって本当に悪いとは思ってるんだよ? ちょっと迷惑かもな~って思ってるんだよ?」
「いやだから、それは分かってるーー」
「最初から迷惑そうにしてるとは思っていたよ? でも、君って私の子と年が近いんだよね。まだひとりでトイレにも行けないわけでしょ? そんな子をこんなところに置いていくなんて私にはできないよ」
「だから……。あのな? いいか、オレはひとりでトイレに行けるし、大丈夫なんだよ。な?」
「ううん。ダメだよ。あのねーー」
「もうッ! なんでさっさと行かないんだよ、ーーって顔近っ!」
 ほんの一瞬だけ黙ったから『話を聞く気になったか!?』と思ってしまったけど、横を向くとオレの目の前には女の顔があって、そいつはオレのことを優しく、まっすぐな視線で見つめていた。オレの意識が敵が浮いている空の方に向いていたとはいえ、ここまで他人の接近を許してしまったのは初めのことだ。石鹸みたいな甘い香りがする。
「今、ちょっとドキッとしたでしょ?」
「あ、……ああ。確かにドキッとしたよ。それに、よ~く見るとシミやシワがあるし、やっぱり年齢通りの見た目なんだなって思った。化粧って凄いな」
「えぇ!? なに? うそ。私はまだ30代だよ? シミもシワもないから。良い乳液と化粧水使ってるから。おかしなこと言わないでよ!」
「はは。どうかな」
「じょ、冗談だよね? 冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ?」
「鏡見てみろよ」
 軽く冗談でごまかしたけど、ドキッとしたというのは本当だ。コイツのことはもともと嫌いじゃなかったんだけど、思っている以上にオレは、この女に気を許していたのかもしれないな。
「……。いつの間にかこいつに、毒されていたのか」
 ここは自分のホームグラウンドではあるけど、銃を持った敵が頭の上に浮かんでいるんだ。普通だったら絶対に、こんな状況で隙を突かれるなんてことはありえない。……いや、ありえてはいけないことなんだ。
「……くっ」
 この女に気を許してしまったのは事故みたいなものだから、それはもう仕方のないことだ。けれど……。いや、だからこそ、オレは今まで以上に気を引き締めなければいけないんだ。生きる残るためには、甘さを捨てなければいけない。
「シミ。シミ……。シミなんてどこにもないじゃない。ねえ、焦って損したよ、もう!」
 女はポケットサイズの手鏡で顔を確認すると、ムムッっとした表情をしてオレのことを睨めつけた。
「君って嫌な性格してるよね。男の子ってみんなそうなのかな?」
「? そんなの人によるだろ? まあ確かに、お前の言う通りオレの周りにいた奴らは冗談を言うようなやつらじゃなかったけどな。黙って親の命令に従うだけの、本当につまらないやつらだったよ」
「あ……。うん。そうだったね」
「ーー……」
 ……。女はオレの言葉を聞いてさりげなく気を遣う。はたから見れば親やあいつらの話はオレにとっての地雷だからな。……だけど、オレ自身としてはどうでもいい話だ。こんなどうでもいいことに気を遣うくらいなら、さっさと帰ってほしいんだけどーー。

「なあ。オレはさ、今までひとりで生きてきたから、別にこんなのは大した状況じゃないんだよ。ひとりのほうが楽だし、自由に動けるし……。だからさ、本当にもう、オレに関わるのはやめにしてくれないか? もう十分満足しただろ?」
 半ば諦めかけた気持ちでオレは女に説得をする。今は気を使ってるモードみたいだから、もしかしたら反論をしてこないかもしれない。
「大変だったんだね。分かるよ……。でも、大丈夫だよ。私に任せて!」
「いや、だからさ、迷惑だって言ってるのが分からないのか?」
「困ってる人を助けるのは当たり前でしょ!」
「話聞いてたのか!?」

 ーーったく。
「ガキが帰りを待ってるんだろ? あんまり悲しませるなよな」
「…………」
 既婚者子持ちの赤空人の女がどうしてこんなところにいるのかは知らないけど、全く関係のないオレからしてみたら凄く迷惑な話だ。本当に、オレひとりだけだったらどうとでもなるんだけど、こいつはオレをひとりにする気が一切ないらしい。

「……。君はさ、自分のことを大人だと思ってるみたいだけど、君はうちの子と同じくらいの年齢なんだよ? どんな生活をしてきたのかは知らないけど、私からしてみたら君は子供だよ」
「ああ、前にも同じことを言ってたな」
 大人だとか子供だとか、そんなくだらないことに拘ってる方がよっぽど子供っぽいと思うけど、コイツはコイツなりに考えがあるから、めんどくさく何度もオレに絡んでくるんだろうな。最初にコイツと出会ったときも、『子供は子供らしくしてろ』みたいなことを言っていたっけ。
「…………」
「君には将来の夢とかないの?」
「は? なんだよいきなり。……夢?」
 本当にいきなりだ。どういう脳の構造をしているのか、全く理解できない。
「君くらいの年齢の子はサッカー選手とか、野球選手とか、そういうのになりたがるものでしょ? そういう夢とかってないの?」
「いや、別に。考えたこともないな。それに、なろうと思ってもなれるもんじゃないんだろ?」
「なれるものじゃないって。それは……」
「……?」
 何か変なことを言ったか? 女は妙に考え込んでいる。

「……。子供はね、もっと自分勝手に生きていいんだよ。君はずっと大人に気を使って生きてきたみたいだけど、子供に気を遣われるなんて凄く悲しいことだから。ありえないような夢だとしても、夢をまっすぐに語れる子の方がかっこよく見えるんだよ。知ってた?」
「そうなのか? それは知らなかったけど……。でも、オレって気を遣ってるか? ため口だし、普通にあんたのこと見下してるぞ?」
「そういうことじゃないよ。気を遣ってるっていうのは……。あと、見下すのはやめなさい」
「はあ」
 なにが『そういうことじゃない』のかは分からないけど、女は結構真剣な表情をして話しているから、『気を遣わせている』と思わせてしまったというのは間違いないだろうな。
「…………」
「私が君を守るから、一緒にここから出よ? それから、外に出たら一緒に夢を考えようよ。くだらないことでもいいから、ありえないことでもいいから。君だけの夢を見つけようよ!」
「なんだよそれ。別に夢なんてなくてもいいし、興味もないよ」
「ふふ」
 夢に全く興味がないというのは本当のことだったけど、自分勝手な女の言葉がバカみたいに眩しく感じた。
 この女はきっと、本当に頭が悪いんだろう。……。だからこそ、誰よりも強く、光り輝けるのかもしれない。

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